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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)6182号 判決

原告 難波秀夫

右訴訟代理人弁護士 塚口正男

右訴訟復代理人弁護士 阪井基二

被告 株式会社津山カントリークラブ

右代表者代表取締役 八尾百合子

右訴訟代理人弁護士 福川律美

主文

一  被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成元年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、主文第一項及び第三項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(主位的請求)

1 被告は、原告に対し、二六〇万円及びこれに対する昭和六三年七月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行宣言。

(予備的請求)

1 主文第一項と同旨。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、肩書地でゴルフ場である津山カントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営する株式会社である。

2(一)  小林雄司(以下「小林」という。)は、被告の本件ゴルフ場の会員募集に応じ、昭和五二年二月一〇日及び同月一六日に預託金各一三〇万円、合計二六〇万円を被告に預託することにより、本件ゴルフ場の会員権二口を取得した。

(二)  原告は、昭和五二年二月一三日及び同月一八日に小林から右会員権二口を合計二〇〇万円で譲り受けた。

(三)  原告は、本件ゴルフ場所定の預託金据置期間である一〇年間を経過した後である昭和六三年四月二〇日頃被告に対し、小林が預託した前記預託金の返還を催告したが、被告はこれに応じない。

3  右に照らせば、原告は被告に対し、前記預託金二六〇万円の返還請求権を有する。

4  仮に、前記2(一)の事実が認められないとしても、被告は、次のとおり原告に対して不法行為責任を負う。

(一) 原告が小林から本件ゴルフ場の会員権を取得した昭和五二年当時は、すでにゴルフ会員権が広く取引や投資の対象となり、市場も形成されていたのであるから、ゴルフ会社は、ゴルフ会員権及びゴルフ会社に対する預託金返還請求権を記載した証書(以下「預託証書」という。)を発行する際には、預託金が現実に入金されたかどうかを確認すべき注意義務がある。

(二) ところが、被告は、右注意義務を怠り、預託金が入金されていないにもかかわらず、小林に対して本件ゴルフ場の預託証書二通(会員番号二一五及び二一八、以下これらを合わせて「本件各証書」という。)を交付したため、原告は、右記載を信用して小林に対し、二〇〇万円を交付したものである。

(三) したがって、被告は民法七〇九条により、原告の出捐した右二〇〇万円を賠償すべき責任がある。

(四) また、小林は、本件ゴルフ場の会員募集を被告から委託されており、被告との間に使用関係が認められるから被告は、小林が右のように原告を欺罔して二〇〇万円を取得したことにつき、民法七一五条により損害賠償義務がある。

(五) 原告は、右(三)及び(四)を選択的に主張する。

5  よって、原告は被告に対し、主位的には預託金返還請求権に基づき、前記二六〇万円及びこれに対する同請求権発生の日の後である昭和六三年七月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、予備的には不法行為に基づき前記二〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成元年一二月一九日から支払済みまで右同様の遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1の事実は認める。同2の事実は否認する。同3の主張は争う。同4(一)ないし(四)は争う。

2  本件で原告が取得したとするゴルフ会員権は、預託金の支払のために手形が差し入れられたものの、当該手形が不渡となり、結局入金がなかったから無効である。したがって、被告は原告に対し、預託金を返還すべき義務はない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告は、昭和四〇年に肩書地で本件ゴルフ場を開設し、現在に至っているが、昭和四八年にはコースを一八ホールに拡大し、また、昭和五〇年頃にはクラブハウスを改築したりしたので、これらを契機に肩書地及び当時大阪市北区神山町七八番地にあった大阪出張所で個人正会員及び法人正会員を募集していた(被告が肩書地で本件ゴルフ場を経営していることは、当事者間に争いがない。)。

2  原告は、昭和五二年当時建築業を自営していたが、建材のブローカーをしていた知人の小西某を介して小林から本件ゴルフ場の会員権の購入を持ちかけられてこれに応じ、同年二月一三日頃及び同月一七日頃にそれぞれ被告発行の右会員権二口(同月一三日頃に会員番号二一五、同月一七日頃に会員番号二一八)を一口一〇〇万円で買い受ける旨の契約を締結し、合計二〇〇万円を小林に交付した。そして、原告は、小林から本件各証書(〈証拠〉)、被告名義の領収書(〈証拠〉)及び預託証書を送付した旨の被告名義の送付案内書(〈証拠〉)等の各書類を受領した。

なお、右領収書には、被告の前記大阪出張所が昭和五二年二月一〇日及び同月一六日に本件ゴルフ場の会員権の対価として小林から各一三〇万円を受領した旨の記載があるが、少なくともその用紙及び押捺された印影にかかる印鑑は、被告が発行する領収書に用いるものであった。

3  原告は、投機の対象として小林からゴルフ会員権を購入したもので、本件ゴルフ場を利用したことは一度もなかった。そして、原告は、本件各証書を担保に金融業者から融資を受けたことがあったが、その際には、特に本件各証書の効力は問題にされなかった。

なお、本件ゴルフ場の規約によれば、本件ゴルフ場の会員は、年間に一定額の年会費(昭和五二年は、個人正会員につき一万円)を支払うことになっているが、原告は、本件各証書を取得後一度も被告に年会費を支払ったことがなく、また被告も原告に対して年会費の支払を請求したことはなかった。

4  本件各証書によると、本件ゴルフ場に対する預託金の据置期間は一〇年間とされていた。そこで、原告は、右期間経過後である昭和六三年三月頃に被告に対し、小林が預託したとされる預託金合計二六〇万円の返還を求めたが、被告は、本件各証書にかかる会員権は無効であるとして、右返還に応じなかった。

5  被告は、本件各証書にかかる会員権のほか、同じく小林が入会申込をした会員番号二一六、二一七及び二一九の各会員権についても、現在これらの預託証書を所持する者との間で紛争を生じている。これら五口の会員権は、いずれも被告の前記大阪出張所が募集したものであり、その発行業務は、同出張所にいた藤原鐘一がこれを担当していたが、同人は現在所在不明であるので、これら預託証書が発行されるに至った経緯は、現在全く不明である。被告は、右紛争においては、これらの会員権は預託金が預託されておらず無効である旨主張しているが、これまでにその旨を広告したことはない。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  そこで、右認定を前提に本件請求について判断する。

1(一)  原告は、本件ゴルフ場の会員権を取得したから、小林が預託した二六〇万円の返還を請求できる旨主張し、原告が小林から被告発行の本件各証書や被告所定の用紙を用いた領収書等を受領したことは、前記認定のとおりである。

(二)  しかしながら、原告は、前記認定のとおり、本件各証書を受領後現在に至るまで被告に対し、一〇年以上にわたり、会員の最も基本的な義務である会費支払義務を履行していないにもかかわらず、被告からは何ら右支払の催告はなかったうえ、〈証拠〉に照らすと、小林は、本件各証書にかかる会員権二口については、手形金額二五〇万円の約束手形一通(〈証拠〉)を預託金支払のために被告に交付したものの、右手形は不渡になり、その後も入金のなかったことがうかがえる。そして、このことに照らせば、原告の右(一)の認定事実をもってしては、直ちに原告の前記主張を認めることができない。

(三)  なお、〈証拠〉は、被告では預託金の支払のため手形が交付されたときには、普通は手形が決済されるまで領収書を発行せず、右決済前に領収書を発行するときには、その旨を領収書に付記することにしている旨供述するところ、前記各領収書にはこうした付記事項の記載がないことは前記認定のとおりである。しかしながら、前記のとおり、当時の被告の大阪出張所における事務の実態は不明であり、これに被告側証拠を考え合わせると、仮に被告がそのような指導をしたとしても、領収書に右記載のないことから直ちに本件各証書にかかる会員権につき現実に預託金が預託されたとはいえない。

また、原告は、右会員権を取得する前に被告に連絡を行い、小林が本件ゴルフ場の会員権を取得した事実があるかどうかを確認し、その旨の回答を得た旨供述するが、〈証拠〉によれば、前記手形の決済日は昭和五二年五月三一日であることが認められ、これに被告側証拠を考え合わせると、仮に原告が右確認をした事実があったとしても、そのことから直ちに預託金が被告に預託されたとはいえない。さらに、原告が本件各証書を担保に金融業者から融資を受けたことは前記認定のとおりであるが、仮に右業者が原告本人の供述するように、電話で被告に確認をしたとしても、その詳細は不明であるうえ、また右融資は、あくまでも原告と右業者間の問題であるから、右業者が本件各証書を有効と判断して本件各証書を預ったからといって、本件各証書にかかる会員権が有効であるとは即断できない。

(四)  このように、請求原因2に沿うかと思われる前記認定事実もいまだこれをもっては右請求原因事実を認めることができず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠もない。したがって、原告の本件主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

2(一)  ところで、預託証書は、権利者の当該ゴルフ会社に対する預託金返還請求権を記載した文書にすぎず、有価証券ではないが、現実には、預託証書が売買されて一つの市場を形成し、右取引に入ろうとする者は預託証書の記載を信用し、これを授受することによって取引を行うものである。そして、ゴルフ会社にとっては、預託金が預託されたかどうかは容易に覚知できる事項である。そうすると、こうした預託証書を発行するゴルフ会社は、右発行にあたっては、少なくとも預託金が現実に入金されたかどうかを確認し、預託金がないのに預託証書を発行することのないようにすべき注意義務があり、これは、当該ゴルフ会社が会員権の譲渡について理事会等の承認を必要としているかどうかによって結論を異にするものではない。

(二)  そこで、これを本件についてみるに、原告が本件ゴルフ場の会員権を取得しなかったことは前判示のとおりであるが、前記認定事実に照らせば、被告又は前記藤原ら同大阪出張所の職員は、手形の入金決済前に本件各証書及び少なくとも被告発行名義にかかる領収書等の各書類を小林に交付し、しかも、その後小林から預託金の入金がなかったにもかかわらず、当該会員権が無効であるとの広告もせずにこれを放置したので、本件各証書の記載を信じた原告は、会員権取得名下に二〇〇万円を出捐し、同額の損害を受けたものである。したがって、被告は、不法行為に基づき原告に対し、右二〇〇万円を賠償すべき責任がある。

(三)  なお、〈証拠〉は、昭和五二年夏頃に原告と名乗る者が被告を訪れ、本件各証書を呈示したうえ、買取方を求めたので、被告の常務取締役であった右瀬島は、当該会員権は預託金が入金されておらず無効である旨告げて右要求を拒否した旨供述するが、仮にそのような事実があったとしても、右結論を左右するものではない。

(四)  したがって、原告の本件予備的請求は理由がある。

三  よって、原告の本訴請求は、被告に対して二〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成元年一二月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中敦)

別紙〈省略〉

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